山形県と着物

山形県は、東北地方の日本海側に位置し、東京から概ね北に300km、山形新幹線で約3時間の距離にあり、一般には、全国生産量の7割を占める「さくらんぼ」と鮮やかな四季で知られています。
蔵王、月山、鳥海、吾妻、飯豊、朝日と日本百名山に数えられる秀麗な山々に囲まれ、南から連なる米沢、山形、新庄の各盆地と庄内平野を「母なる川」、最上川が流れる、美しい自然に恵まれた地域です。そこでは、人の住む集落、市街地と農地や里山が綾をなし、自然と人間が調和して存在する、「もう一つの日本」が広がっています。
江戸時代、俳聖・松尾芭蕉は「奥の細道」の全行程156日のほぼ三分の一にあたる43日間を山形県で過ごし、その旅は出羽三山を目指した「心の旅」とも言われるように、いにしえの昔から、山形県は精神文化の地とあがめられてきました。
全国第9位の93万haの県土面積は、その地勢や江戸時代の幕藩体制のなごりから、方言や食べ物など、文化も少しずつ異なり、南から、置賜(おきたま)、村山(むらやま)、最上(もがみ)、庄内(しょうない)の4つの地域に大きく区分されています。

・山形県の代表的な着物
「米沢紬」

米沢紬は山形県の米沢市周辺で生産される紬織物です。江戸時代中期に米沢藩主の上杉鷹山が藩政改革の一環として、越後国から技術者を招き養蚕や織物を産業として確立させたことから絹織物が始まりと言われています。米沢紬は「先染め」と言われる手法で織られる先染め織物です。布地を染料で染めるのではなく、先に一本一本糸を染色して色糸を作ってから、その色糸を組み合わせて紋様を織っていきます。また、紅花や藍、紫根などの植物染料を用いて草木染されている事も特徴の一つで、草木染めによる素朴な風合いが人気を誇ります。


「紅花染」

山形県は、かつて日本一の紅花生産地として栄え、現在でも重要な伝統工芸の一つです。紅花染は山形県花に指定されている「紅花」を用いて絹、木綿を染め上げる手法です。紅花はエジプトからシルクロードを経て飛鳥時代に日本に伝来したとされています。室町時代に山形へ伝わり、江戸中期には日本一の生産地となって藍茜、紫根とともに代表的な染料植物として重宝されてきました。花弁には黄色色素と紅色色素を有し、黄色から紅色まで染めることができます。濃い色を韓紅、紅、淡い色は薄紅、黄みのさえた赤色のことを紅緋と言います。紅色色素はわずか1％ほどしか含まれていないため、紅花染で染められた紅はとても貴重です。そのため京都の西陣織のような高級な着物にのみ使用されました。製作工程は、まず初めに摘み取った紅花を足で踏むなどしてよく潰し、1～3日発酵させた後、臼と杵でついて平たく成形し、日陰で乾燥させた「紅餅」を用いる事が特徴です。冷水で黄色の色素をもみ出し、灰汁などを加えて液をアルカリ性にして色素を染め液に溶かします。仕上げに鳥梅、米酢などで赤に発色させ、この染め液に絹や木綿を入れて紅を付着させることで紅染めが完成します。


「置賜紬」

置賜紬とは、山形県置賜地方の米沢市 、長井市、 白鷹市周辺で生産されている織物の総称です。いずれも先染めした生糸・玉糸・真綿糸を使用し平織で織っていきますが、その織られている場所によって技法が異なっているため個性が出ます。歴史は1596年～1615年の間からといわれていて、上杉景勝の奨励により産地が確立され発展していきました。 受け継がれている置賜紬は、米沢は「草木染紬」や「紅花染紬」の紅花や藍、刈安などの植物染料を用いて糸を染めて織る先染めの技術を、白鷹は「白鷹板締小絣」、長井は琉球織物の影響を強く受けている「米琉板締小絣」など高度な絣技術を開発しました。それぞれの地で発展した伝統紬は「置賜紬」として、1976年に国の伝統的工芸品の指定を受けました。


「科布」
科布は科木の樹皮から取れる繊維を糸にして布状に織り上げた貴重な古代織物で、葛布・芭蕉布と並ぶ日本の三大古代布の一つです。茶褐色で丈夫で水に強く、ざっくりとした手触りをしているのが特徴ですが、使い込むほどしなやかさが増し、味わい深くなります。 かつては全国各地で生産され労働着や穀物袋、魚袋、畳糸等に用いられていました。今なお残る数少ない生産地である山形県の山里では山仕事や農作業が出来ない冬の貴重な収入源でした。しかし木綿や絹の普及、戦後の化学繊維の登場により衰退しました。 現在では山形県と新潟県の一部でわずかに生産されているため希少な織物といえます。野趣味のある生地感を活かし、帯や草履、バッグなどが作られており主に夏のアイテムとして着用されます。

・山形県の着物の歴史は？
奈良時代から生産されていた置賜地方の絹織物が本格的に商品として生産され始めたのは17世紀の安土桃山時代です。
1601年に関ケ原で西軍についたがために米沢に転封となった越後の上杉景勝とその家老である直江兼続は、多くの家臣団や領民を養っていくために新たな産業を起こさなければなりませんでした。
そこで、彼らが目をつけたもののひとつが置賜地方の絹織物で、直江兼続は京都から職工を呼び寄せて絹織物の生産に力を注ぎました。
やがて江戸中期になると米沢の名君として名高い上杉鷹山が、越後や足利などから優れた職工や技術を導入し、現在行われている染色や絣織りの技法がほぼ確立していきました。
近代に入ると着物の需要が減少したことや昭和初期の世界恐慌によって絹製品が暴落してしまったことなどが影響し、全体の工房の数は激減してしまいます。
しかし、時代の変化の中を生き残った工房は受け継いだ技法を駆使して優れた作品を生産し続け、工芸品的価値を認められた置賜地方の紬は1976年に国の伝統工芸品指定を、さらに2007年には県の無形文化財指定を受け現在に至っています。

・山形県の着物文化の特色は？
山形県の着物文化の特色は、「置賜紬」にあります。置賜紬は、江戸時代から続く伝統的な絹織物で、地域ごとに異なる技術が受け継がれています。特に、白鷹町では上杉鷹山が養蚕業を奨励し、絹織物が産業として根付いたことが背景にあります。「米沢紬」、「長井紬」、「白鷹紬」を総称したものをいいます。山形県の着物文化は、歴史の中で育まれた伝統の技と、豊かな自然から得られる染料によって、、奥深い魅力を放っています。置賜紬や科布をはじめとする美しい着物は、現在も職人たちの手によって大切に織り続けられています。

・山形県の祭りや行事の着物との関わりは？
山形県の祭りや行事における着物との関わりとして、地域に根付いた歴史や文化を色濃く反映しており、着物はこれらを彩る重要な要素となっています。特に「花笠祭り」は、山形県を代表する夏祭りであり、踊り手が華やかな花笠を持ち、伝統的な衣装を身にまとって踊ります。また、山形市の「新庄祭り」は、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている歴史的な祭りで、豪華な山車とともに、伝統的な着物を着た人々が行列を作り、祭りの雰囲気を盛り上げています。

・山形県の観光や着物体験は？
山形県の観光と着物体験では、より深く山形県の文化や美しい景色を堪能することができます。置賜地域では、江戸時代から続く絹織物の伝統が根付いており、観光客は工房での体験を通じてその魅力を学ぶことができます。 また、NIPPONIA白鷹源内邸は宿泊施設ですが、豊富な種類の着物から好きなものを選んで着付け体験ができ、置賜紬に触れることができます。他にも山形市内や鶴岡市内を中心にレンタル着物店が多くあり、鶴岡公園や山寺などの観光スポットを着物を着て楽しめます。