「更紗」とは、室町時代後期から江戸時代初期にかけて、南蛮貿易を通じてインドやジャワから輸入された、異国情緒あふれる染め布のことを指します。この影響を受けて、日本国内で制作されたものが「和更紗」と呼ばれています。特に「鍋島更紗」は、佐賀の鍋島藩の保護のもとに制作され、その優れた技術と美しい文様で名高いものでした。鍋島更紗は献上品としても使われ、格調の高い作品が多かったのですが、明治時代の廃藩置県により継承者が途絶え、大正初めには一度姿を消しました。 しかし、幸運にも鍋島更紗に関する「秘伝書」や「見本」が残っており、故・鈴田照次さんはそれを基に技法の復元に取り組みました。彼は彫りの深い木版を使用し、更紗の線や輪郭を捺印する「木版染め」の技法を再現。また、渋紙を切り抜いた型紙を用いた「型紙摺り」により、「木版摺更紗」という新たな技法を確立しました。 鈴田照次さんの息子、鈴田滋人さんは、身近な植物や故郷の自然を題材に作品を制作し、その緻密で洗練された作風により、2008年に重要無形文化財「木版摺更紗」の保持者として認定されました。木版摺更紗は、文様の輪郭線を木版で摺り、型紙を使って染料を刷毛摺りする独特な技法を持ち、格調高い作品が特徴です。 この技法は、繰り返し文様の効果を狙ったデザインが多く、着物の場合、一色につき1,000~2,000回の繰り返しが行われます。色数が増えるほど手作業の回数も増え、根気が必要です。使用する木材はエゾツゲなどが適しており、掌サイズの木材ブロックに文様を彫り、墨を使って白生地に捺染します。 また、木版による「地型」と型紙による「色摺り」の後、色を重ねるために「上型」技法を用いることもあります。これにより、墨色の輪郭にさらに複雑な線や色合いが加わります。手作業で作られるため、全く同じ模様は存在せず、作品には職人の手仕事による温かみが感じられます。幾何学模様が多く、その美しいコントラストと多彩な色使いも魅力です。 今日の木版摺更紗は、伝統技法を基にしつつ、デザインや色調に創意工夫を凝らし、高度な芸術的表現が可能な染色技法として高く評価されています。 染織工程 1.スケッチ: 草花や木々を題材にスケッチを行います。 2.デザイン: スケッチを抽象化し、文様をデザインし全体を構成します。 3.木版作成: 蝦夷黄楊などの木に彫刻し、2種類の地型と対応する上型を作ります。 4.型紙作成: 色摺り用の型紙を彫り、文様を色ごとに分解して制作します。 5.生地張り・寸法書き・印付け: 生地を張り、仕上がりを想定して寸法や印を付けます。 6.地型版打ち: 文様の輪郭を地型木版で版打ちします。 7.色摺り: 型紙を用いて、薄い色から順に刷り込んでいきます。 8.上型版打ち: 色摺り後に、木版で輪郭を版打ちします。 9.糊入れ: 地染め用型紙で糊を入れます。 10.地染め: 生地全体を地染めします。 11.蒸し・洗浄: 地染めを定着させるために蒸し、水洗いして糊を落とします。 12.乾燥・仕上げ: 水気を取って張木に張り、アイロンをかけて仕上げます。
画像の着物・帯は弊社で過去に買取したものです。
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