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北村武資

北村武資氏は、1995年に「羅」の技法、さらに2000年に「経錦」の技法において、2つの分野で重要無形文化財保持者、すなわち人間国宝に認定されています。彼は染織界において最も重要な位置を占める染織家の一人です。 
「羅」は、経糸4本を一組とし、一本の経糸が左右の経糸と捩り合って薄い網目状の織りとなり、地と文様を築いていく技法です。紗や絽などと同様、薄く繊細な軽やかさを特徴とし、その複雑な綟れによって、布に美しい〝隙間〟を生み、軽やかな文様を生み出す織物です。 
中国・前漢時代に、織られていたとされる「羅」は、日本でも室町時代中頃まで織られていましたが、中世以降衰微し、応仁の乱以降はほとんど織られなくなりました。しかし、1972年の「二千百年の奇跡中国・長沙漢墓写真展」での一枚の写真に映し出された、貴人の棺の内張りとしての羅との出会いを機に、北村武資氏は、「羅」の再現への取り組みを始め、自ら工夫をこらした織り機を考案し、約一年をかけて再現に成功しました。以後、さらに現代性を加えた新しい羅の世界を広げ、1995年に国の重要無形文化財保持者に認定されました。また、北村武資氏は、その高度な技術を再現するのみで満足することはなく、独自のリズムを刻む透かし文様が有機的な糸の力を引き出す「透文羅」として、〝現代の羅〟を見事に示しました。 
「経錦」もまた北村武資氏の世界で重要な位置を占めています。中国では漢代に発達し、日本では古墳時代の出土例が報告されており、本格的には飛鳥時代以降に織られたと言われています。経錦は複数(基本は3色)の経糸を一組として、その浮き沈みで文様を表現する織物です。経糸が密に配置されるため、制約が大きく、歴史的には衰退していきました。しかし、北村武資氏は旺盛な探求心を持ち、技法の制約を感じさせることなく、斬新で大胆な経錦の文様を展開しました。文様の図と地の絶妙な配置、柄の大部分と隙間、細部の完璧なリズムで繰り返され、精緻で破綻のない織り組織と洗練された色彩が調和しています。これらの特徴により、北村武資氏の作品は雅な品格を持ち、重要無形文化財保持者らしい織物となっています。 
さらに、北村武資氏は織物の基本四原組織(平織・綾織・繻子織・綟織)を研究し、それらが経糸と緯糸の関係を示すものであると考えました。彼は「織物の組織そのものが表現」であるとし、織の構造美を極めました。羅も経錦も一つの技法として相対化し、多様な織物を創作しました。彼はあらゆる織物を繊維の構造体として捉え、織物の創造性を示してきました。 
また、北村武資氏は化学染料や明度、彩度の高い色を積極的に採用しました。一見派手な色糸を織物の組織に組み込むことで、洗練された色調を生み出しました。文様構成においても色同士の関係や面積のバランスを考慮し、明度と彩度の高い色彩が典雅で華やかな品格を形成しています。厳選された鮮やかな配色は、文様を明快に、格調高く見せています。 
北村武資氏は、1935年に京都市下京区五条で生まれ、織物の世界で重要な役割を果たしました。彼の父親は表具師であり、北村武資氏は15歳のときに西陣で織物の見習い工として働き始めました。西陣は日本を代表する織物の産地であり、彼は機織り職人たちと共に糸を巻き、機をセッティングする仕事を通じて織物に対する主体的な姿勢を身につけました。その後、彼は「龍村美術織物株式会社」に入社し、熟練の技術と作家的な目線を持つ職人たちと交流しながら、織物の本質を理解しました。 
北村武資氏は「創作」の概念を追求し、伝統工芸展に作品を出展しました。彼の作品は織の規則性と秩序を保ちながらも、有機的な模様や奥行きを持ち、独自のオリジナリティを発揮しています。また、「変わり織」と呼ばれる素材も織り上げ、糸と糸がダイナミックに結びついて生き生きとした質感を生み出しています。 
彼の織帯はフォーマルな場でも広く知られており、多色や金銀糸を使用した作品は華やかで存在感があります。例えば、「煌彩錦」は奥行きのある品の良い華やかさを放ち、「斑錦」は上質な紬から訪問着まで幅広く合わせることができる質感と趣を持っています。 
北村武資氏は、2022年3月31日に永眠されました。

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